2003年02月17日

心の深みへ

人間は12~3歳で一度人間として完成する。」この言葉には衝撃を受けた。ここで鎌倉時代の坊さん「明恵」(みょうえ)が13の時に自殺を決意するが、死にきれず、3年後出家する。人間には「死」と正面に向かい合って過ごす時期があるという。そしてその時期、「不図(ふと)したこと」があると死に魅入られて死んでしまうことがある。

この少年期~思春期、我々に訪れたであろう、ちょっとした事件を宮沢賢治「風の又三郎」を引き合いに出して、ミステリアスに説いていくあたり、武田鉄矢、語りの白眉ともいえる名調子となって行く。「どっどどーど...」ガラスの靴にガラスのマント、ガラスと評するあたり、少年期の扱いを誤ると割れて我が身に突き刺さる。この小説の中に不思議な表現がいくつも出てくる。少年の心理には死に対する憧れがある、そこからぱっと離れるのが青年になることだ。

21世紀はちょっと「科学」でものを見るのを休んではどうか。戦後の民主主義、個人主義は女性と子供で形作られてきた。がそこに今、軋みつつある。一方、男の方はというと「四十七士」から「プロジェクトX」に至るまでみんな団体主義だと。そこで武田さんは自らの家庭をちょっとだけ嘆いてみせる。アシスタントの子の緊張がとけて笑いが発する。もう、ラジオを通して武田さんの地方周りをしているコンサートの場にいるようだ。

「今の若い人たちは大変なんだ」という「昔は食うためにいきていくと言うだけで立派な人生だった」つまり食えるようになったというのは成熟した人間として通用した。「最近は食えるだけではだめだ。子供の時から食える人というのは、もっと深い悩みを同時に負うことになる。今の十代二十代の人たちはお釈迦様と同じ苦しみを背負わなければなりません。え!?と言う感じだった。お釈迦様はええとこの坊ちゃんで小さいときから食べることできていたから、「なぜ人間は苦しまなければならないのだろう」という難問に引っかかる。

成熟する時が今どんどんずれ込んでいるという。三十代後半から四十代で自殺する人が増えているという。これは青春時代に悩むことを保留した人たちが、急に驚くべき真剣な山道を登らざるを得なくなる。もう、いったい時にしてみるとこの分量はナンなのだ。書き始めて今更ながらに、奥の深さに驚きながらつづっている。これを救う知恵が仏教にあるのではないか。

個人主義を支えてきた科学が今、根本からがたがたと揺れている。イデオロギーは人を幸せにしない。幸せになる方程式はこの世に存在しないんです。それははっきり分かった20世紀で。原因と結果という見方をしない。という提言。

脳死の問題...どんなにお医者さんが「おたくの息子さんは今、脳死の状態にあります」といわれても、目の前で眠って息をしている息子を死んでいるとは思えない。柳田さんの横に田舎出身の看護婦さんが「声かけてあげてください、親族の方が声かけてあげると心拍数が高鳴って反応しますから」柳田さんはあれほど息子と話したことがないという。脳死は科学で判断できるけど心では判断できないのだ。

アダルトビデオの質が最近落ちてるよ。ビデオ制作しているひとは、科学的に「性」を映像化しようとしている。さっこのアダルトビデオは技術関係の映像でしかない。「タイの少年が象を洗っている。」ってな感じ。少年と象との関係が描けていない。象の洗い方ってこうなんだ、ということしかない。技術しか写っていない。物語がない。そして、このアダルトビデオを見た青少年が「アレが性なんだ」と思うことに危惧する。性は関係として捉えると千変万化の曼荼羅だけど、技術としてとらえるとつまらない。性は make loveであって do love ではないのだよ。

死を「蝶」でシンボライズするのは人間に、文化文明を越えて存在しているらしい。武田さんはここでまとめようと試みるが、かえって分散してしまう。いくつかまとめようとする例を挙げるが、かえって分散。でもね、武田さん。まとめるってまさに科学の手法そのもの。話は拡散したままで終わるがこれが本来の姿かと。この週は深かった。いろいろな話題が豊饒の海のごとく出てくる。ここでのエピソードが後の週の話題になる。

(2003/02/17~21 放送)

Source

cover 心の深みへ―「うつ社会」脱出のために 河合 隼雄, 柳田 邦男 (著)

Amazonの「MARC」データベースより
生き方に悩むとき、生きる力が湧きあがる本。柳田邦男が河合隼雄にするどく問題をぶつける。河合隼雄が、さらに問題を深める。自分とは、生きるとは、死ぬとは…対話に耳を傾けるうちに心が癒され生き返る。

cover 風の又三郎・岩波少年文庫 宮沢 賢治 (著)

Amazonの「Book」データベースより
宮沢賢治の童話集。「雪渡り」「よだかの星」「ざしき童子のはなし」「セロ弾きのゴーシュ」「風の又三郎」など、岩手をみずからのドリームランドとした賢治の作品の中から、郷土色ゆたかなものを中心に10編を収める。小学5・6年以上。

cover 犠牲(サクリファイス)―わが息子・脳死の11日 柳田 邦男 (著)

Amazonの「Book」データベースより
冷たい夏の日の夕方、25歳の青年が自死を図った。意識が戻らないまま彼は脳死状態に。生前、心を病みながらも自己犠牲に思いを馳せていた彼のため、父親は悩んだ末に臓器提供を決意する。医療や脳死問題にも造詣の深い著者が最愛の息子を喪って動揺し、苦しみ、生と死について考え抜いた11日間の感動の手記。

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