2003年06月23日

黒沢明「赤ひげ」(その1)

この「映画を語るシリーズ」ではマルセ太郎さんを意識しているんです。彼の舞台に映画を一人芝居で行うというのがあってこれが本編の映画よりも面白いとの評判だった。

私は「赤ひげ」一度大学生の頃に見ている。重苦しい映画、ここまで重苦しく作るこたぁないじゃないか。第一、加山雄三・若大将が歌わないし(笑い)。

ところが、20代の頃に面白くなかったのに30代40代だんだんと面白くなる。49歳で母が逝ってすごく落ち込んでいた。このときにLDで4度目に「赤ひげ」をみる。名作と納得できる。

みなさん、この映画は落ち込んだときだけ見てください。夢や希望、恋をしている人は見ないでください。失意に打ちのめされた人を救える唯一の邦画です。

さて、この映画が公開された当時、日本映画は7年間で動員数を3分の一にへらしてたんです。これはTVの普及によるもので。昭和34年皇太子ご成婚から、決定的にTV時代となっていったんですね。

でも黒沢監督は高らかに宣言します。「映画は確かに斜陽化している。TVは映画の的ではない。TVは映画を脅かさない。映画は観客を励まさなければならない。」こうして黒沢は日本映画復活を懸けてこの「赤ひげ」を撮るわけです。

赤ひげ誕生までののエピソード
黒沢の子供の時に見た南極を暑かった映画を見て強烈な原体験を持っている。そして、黒沢は文学、それもドストエフスキイに引きつけられていく。ドストエフスキイのテーマは「神はいるのか」。そして、日本の作家、山本周五郎に吸い寄せられる。 たとえば 映画「椿三十浪」は小説「日々平安」
映画「ドデスカデン」小説「季節のない街」
森本哲朗さんは「言葉への旅」のなかで山本周五郎を「神を目指している作家」と評します。

さて、ここからが武田さんの語りでの映画の筋が始まるわけですが、いつもの通り、武田さんの語り口調が真骨頂な訳で、こうした活字ではいかんとも表現しがたい。したがって、このブログでは筋を追わずに、挿入されたエピソードなどを拾っていきます。
トップシーンから江戸時代に入ったような不思議な感覚。
小石川御薬園の小石川養生所 これを映画の中に再現。このセット、締めて一万坪。ものすごく精密なつくりだった。薬の調合室などなど、そっくりに作った。薬棚の引き出しには全部本物の薬が入っていたんだそうです。映画の中で引き出しを引く場面はないんですよね。

そして、赤ひげ先生の赤髭を白黒画面でひげを赤っぽ見せるための一ヶ月間の苦闘。御船俊郎さんのひげをオキシフルで脱色、ひげに銅と銀粉でまぜてオキシフルで色を抜いてオイルブリーチで脱色して白黒画面で赤っぽいという画面が出たんでOK。

座敷牢にとらわれた絶世の美女。安本が言い寄られて動けなくなったときに、喉元に簪を突きつけられて、あわやのところで助けられる。というシーン。
この美女の顔がその瞬間に夜叉の顔にかわる。男をその瞬間に殺すことに快感を覚えるそういう病気だったんですね。
これが8分間の長まわし。お嬢さんの目にゆっくりと狂気が宿る。その有様をキャッチライトで表現。目に光を入れる。6日間練習をつづけたという。役者は疲れるので午前中で終わらせて、あとはスタッフが目の中に光を入れる練習を繰り返したという。

死にかかっている老人の臨終を看取る。そのとき大外科手術の事件が起きる。この撮影の時に、セットの墨には3人の外人映画スターが見学に来てたそうな。
シドニー・ポワチエ
カーク・ダグラス
ピーター・オトゥール
よーい とかけ声がかかった瞬間この3人は立ち上がってカットがかかるまで動かなかった。それほどスゴイ現場だった。

(2003/06/23~27 放送)

Source

cover 黒沢明と『赤ひげ』
―ドキュメント・人間愛の集大成 (単行本)

都築 政昭

Amazonの「MARC」データベースより
黒沢映画の集大成とされ、至宝のスタッフ全員の力をギリギリまで絞って、黒沢システムを完遂させた傑作「赤ひげ」。この作品はどのように創られたのかを、出演者、スタッフへの取材を通して解き明かす。

cover 赤ひげ診療譚 (文庫)
山本 周五郎

Amazonの「BOOK」データベースより
幕府の御番医という栄達の道を歩むべく長崎遊学から戻った保本登は、小石川養生所の“赤ひげ”とよばれる医長新出去定に呼び出され、医員見習い勤務を命ぜられる。貧しく蒙昧な最下層の男女の中に埋もれる現実への幻滅から、登は尽く赤ひげに反抗するが、その一見乱暴な言動の底に脈打つ強靱な精神に次第に惹かれてゆく。傷ついた若き医生と師との魂のふれあいを描く快作。

cover 赤ひげ

監督: 黒澤明

Amazonのデータベースより
江戸時代に材を取った山本周五郎小説の映画化。黒澤監督は複数の長屋物語だった原作を大胆に脚色、一長屋の群像劇に凝縮。完成した作品を観た山本をして「原作よりいい」と言わしめた。
江戸時代末期、エリート青年医師・保本登(加山雄三)は心ならずも貧民たちの施設・小石川療養所に配属される。しかし、そこで出会った「赤ひげ」の異名をとるベテラン医師・新出去定(三船敏郎)に感化され、真の人間愛にめざめていく。
山本周五郎の名作を黒澤明監督が2年の歳月をかけて映画化した超大作で、黒澤ヒューマニズム映画の頂点ともいえる名作。貧困にあえぐ人々のさまざまなエピソードから、逆に人間の尊厳が醸し出され、強い希望をもって生き続けていくことの大切さなどが、パワフルな説得力を伴って描かれていく。三船敏郎は本作でヴェネツィア国際映画祭主演男優賞を獲得したが、同時にこれが黒澤映画最後の出演作となる。それはまた、黒澤映画の転換をも促すことにもつながっていった。

cover 江戸の養生所 (新書)
安藤 優一郎

Amazonの「BOOK」データベースより
『養生訓』など、養生文化隆盛のなかで生まれた小石川養生所。テレビドラマや小説では、献身的に患者と向き合う医師の姿が描かれる。しかし、約百五十年にわたる活動記録を丹念にたどると、それとは程遠い実態が浮かび上がる。投薬をしぶる医師たち。患者からあの手この手で金を巻き上げる看病人。所内で堂々と営まれる博打や高利貸し…。赤ひげ先生はどこにいたのか?幕府を悩ませ続けた看護・介護問題の困難さは現代医学が抱える諸問題に通底する。気鋭の江戸町史研究家が斬り込む、お江戸の病院事情。

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