2003年08月11日

黒沢明「赤ひげ」(その3)

保本は将軍の御殿医を目指すエリートそれが左遷された形で養生所にやってくる。ここから先は保本の成長を描いていく。

「おとよ」は岡場所の郭に売られた子。体も心もぼろぼろ。心がものすごく年取った。当てつけのように廊下を拭きまくる。迫力に押されて赤ひげの薬湯は飲むようになる。仁木てるみさんの演技がスゴイ。 「あの人はなぜ私をぶたないの。」
「よのなかにはね心の優しい人もいるんだよ。」
「親切な人には用心をし。」

おとよがここで初めて知る親切。
ここである事件が起きる。自分は如何に思い上がった若造であったか、自己嫌悪。保本はそして倒れる。ここから物語はねじれる。熱を出して倒れた保本をおとよが看護をする。
ここでのおとよが別人。
裏の貧乏長屋のちょうじ
おとよを取り返しに来る岡場所のおきん
まかない方のおばちゃん達が大根でおきんの頭をぶったたく。
「かっちゃぶいてやる!」という一言。江戸言葉「破く」「か」をつけて言葉に勢いが出る。かっ飛ばす かっ掘れ=カッポレ
黒沢の研究しつくした台詞。一行の台詞も無駄に言わせていない。

「ちょうぼうやーい」という声が聞こえてくる。これは死にそうな人の魂を呼び返すおまじない。井戸の底にむかって大声で名前を叫ぶシーン。この場面の音録りは鉱山を見つけておばちゃん達全員を連れて行って叫ばしたそうです。
その井戸の場面。
水面に全員の顔がうつっていて、そこに水滴が一滴落ちていく。カメラが写っていない。
これは一体どんな方法で撮ったのか。すごいアイデア。
ちょうぼうが目を覚ました!
一つ一つのエピソードが捨て置けない。

ラストシーン。養生所への坂道。
ベートーベンの歓喜の歌に近い音楽をながす。
人生に答えはない。人生は我々に訊いてくる。人生に答えるのが生きることだ。 ヒューマニズムの大きいテーマ。

繰り返し申しますが楽しむ映画ではありません。
ホントに絶望したときにみてください。
若い人は見ても分かりません。20代の時に見ても何にもわからないです。 お手紙にもあった。聴きながら見えるようだ。「マルセ太郎さんを思い出しました」マルセ太郎の「泥の川」はよかったですねー。少年時代の話。

(2003/08/11~15 放送)

Source

cover 黒沢明と『赤ひげ』
―ドキュメント・人間愛の集大成 (単行本)

都築 政昭

Amazonの「MARC」データベースより
黒沢映画の集大成とされ、至宝のスタッフ全員の力をギリギリまで絞って、黒沢システムを完遂させた傑作「赤ひげ」。この作品はどのように創られたのかを、出演者、スタッフへの取材を通して解き明かす。

cover 赤ひげ

監督: 黒澤明

Amazonのデータベースより
江戸時代に材を取った山本周五郎小説の映画化。黒澤監督は複数の長屋物語だった原作を大胆に脚色、一長屋の群像劇に凝縮。完成した作品を観た山本をして「原作よりいい」と言わしめた。
江戸時代末期、エリート青年医師・保本登(加山雄三)は心ならずも貧民たちの施設・小石川療養所に配属される。しかし、そこで出会った「赤ひげ」の異名をとるベテラン医師・新出去定(三船敏郎)に感化され、真の人間愛にめざめていく。
山本周五郎の名作を黒澤明監督が2年の歳月をかけて映画化した超大作で、黒澤ヒューマニズム映画の頂点ともいえる名作。貧困にあえぐ人々のさまざまなエピソードから、逆に人間の尊厳が醸し出され、強い希望をもって生き続けていくことの大切さなどが、パワフルな説得力を伴って描かれていく。三船敏郎は本作でヴェネツィア国際映画祭主演男優賞を獲得したが、同時にこれが黒澤映画最後の出演作となる。それはまた、黒澤映画の転換をも促すことにもつながっていった。

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