2007年03月08日

炎の罪 その2

まずは普通に、それから速く
見たことを正確に
見えたものは見たのか?

テーマ曲


マンションのロビーに煙が立ちこめる中、次々に住人が降りてきた。
やがて、消防車、救急車のサイレンも聞こえてきた。
新聞少年がいつまでもここにいても邪魔だろうし、新聞はまだ半分も残っている。

玄関口から出ようとしたら、配達仲間がやってきた。「火事だからダメだよ」と言い残してマンション前から再び大久保通りへ出る。消防車がすでに止まっていて何人もの消防士とすれ違う。現場には緊張のようなものが走り始める。

10分遅れだ。急いで配れば何とか間に合うだろう。広い地域をまだあと半分回らないといけない。なにしろ今日は1時限目から授業があるのだ。

大学から帰って販売所に立ち寄ると、店主が「おい、おまえのところの**マンション今朝火事があっただろ。」
「はい」
「大変なことになってるようだぞ。新聞は入れてきたのか」
ちょうど火事を見つけたのが自分で配達できなかったことを話すと、別の先輩が
「じゃあ、おまえ感謝状ものだな。もしかしたら、新聞とってくれるかもしれんぞ。」

うーん3年もいると、拡張のことしか考えなくなるのか..それでも、配達できなかった分を夕刊と一緒に配ろうと別にして持って行く。

夕刊の配達は朝刊とは逆回りだ。朝刊は早く持ってきて欲しいというお客がいるので、それにあわせて順路を組んでいる。その順路だと大久保通りは東向きに進むことになる。夕刊配達時は帰宅ラッシュが始まる時分で、新大久保駅に向かう人の流れ(これは西向きだ)がすさまじい。配達時はこの流れに乗った方が効率が良いのだ。火事のあったマンションは片付けも終わり、朝刊と一緒に配ってきた。

順路が逆なので配達が終わったあと「回送」で大久保通りを逆に走ってこなければならない。でも急ぐ必要はない。のんびり人の流れの合間を見て自転車を転がしてゆく。例のマンションの前にパトカーが止まっている。巡査が何人か出ていて通りがかりの人に聞き込みを行っている。私にも声がかけられた。

「けさのマンション火災のことを知ってますか?」
「はい、私が見つけたんです。」
巡査の顔色が変わる。そこで見つけたときの様子を詳しく話す。名前住所電話番号を聞かれたので、販売所のものを答えておく。「自宅」住所を答えても帰るのは寝るときだけだから無意味だと思った。

大久保通りを「回送」するにはもう一つ理由があった。明治通りを渡ったところにある今川焼きの店だ。ここに立ち寄って道ばたで買い食いするのが、たまの習慣だった。別の新聞仲間のカズも同じで、やつも時々ここで買い食いしていたのですぐにうち解けた。

私はクリーム餡、カズは小倉餡の今川焼きを食べながら今朝の火事のはなしになる。
「あれ、放火って話だぞ。」
「だれが?」
「だれかわからんけど、そういうこと言ってた。」
「最初に見つけたぼくだよ」
「ええ!!、そうなん。」
雑談をしてると、顔見知りの親父さんが通りかかる。
「こら!、こんなところでサボってると言いつけるぞ。」と笑い顔だ。
「てへっ!」
と、二人はこれを潮に「じゃまた」と分かれる。

翌朝、例の**マンションの住宅入り口に自転車を止めた。
管理人さんは別の人に替わっていた。

トラックバックURL

このエントリーのトラックバックURL:
http://saiquet.sakura.ne.jp/8869/mt-tkereb.cgi/351