2007年03月08日
炎の罪 その1
火、火、火
その管理人室は、何か不自然だった
その管理人は私を見ていなかった
テーマ曲
--1980年代--
バブルへ向けての階段を駆け上っていたあの時期、私は新聞配達の奨学生として新宿に住んでいた。その新聞は他社大手とちがって発行部数が少なかったので、広い地域を一人でカバーしなければならなかった。早朝2時間ほどの短い時間、多くの新聞配達の仲間、牛乳配達、早朝の仕事に出かける人、深夜の仕事から帰ってくる人、そんな人たちとすれ違った。
私の担当する配達区域は山手線・大久保通り・明治通り・職安通りに囲まれた地域+α。区画整理された隣の歌舞伎町とは対照的に、上記の大通り以外は細い路地が入り組んでいる。現在はミニコリアタウンと化した大久保あたりだが、80年代はまだいろんなことがモザイク模様のごとく入り組んでいた。
そんななか、毎日顔を合わせる人々が決まってきた。もちろん配達の仲間。同じ場所同じ時間に同じ人に会う。同じ場所で言えばビルの守衛さん、マンションの管理人さん。
その火事が起きたのは大久保通りに面した高層マンションだった。大久保通り沿いの1階と2階は店舗。3階以上が住宅になっていた。1階は当時、倒産品の安売り会場のような場所を貸していて、2階は居酒屋がはいっていた。
その時、私の配達の道順はこうだった。
大久保通りの南側歩道を明治通りに向かって進む。右折して細い路地に入り、途中の小さなマンション「カーサ**」に一軒入れる。その路地を大久保通りに向かって引き返す。再び大久保通りを明治通りに向かって走り、次の路地を右折、火事を起こした高層マンションの住宅入り口に自転車を止め、エレベータで上の階に上がる。
つまり、その高層マンションの道に面した三辺をぐるりと回って住宅入り口に向かっていたわけだ。
火事の発見は「カーサ**」に新聞を入れて、引き返すために自転車の向きを変えたときだった。高層マンションの2階飲食店あたりから煙が上がっている。朝6時前、他に人気はないと、おもったが、大久保通りから煙を見上げている人物がいる。マンションの管理人さんだ。管理人さんは慌てた様子で、引き返す。私は急いで自転車をこいだ。
住宅入り口で管理人さんに追いつく。
「あれ、か、火事だよな」
「はあ」
「ええ、っと ひゃくとうばん って何番だっけ?」
わたしは、こんなコントのような場面に自分が出くわすとはと、なんだかおかしくなり同時に少し落ち着いてきたので、
「管理人さん、火事でしょ。火事ならひゃくじゅうきゅう番 1,1,9」
「ああ、そうか」
管理人さんは電話に向かわず、非常ベルを押す。
館内にベル音が響き渡る。
煙がロビーまで広がり始める。
管理人さんのうわずった声が聞こえる。
「そうです。大久保1丁目○-○、**マンションです」
階段から住人がパジャマのまま降りてくる。
私は叫ぶ「火事です、逃げてください!」
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