2007年08月25日

人類を創成した宇宙人

地球年代記シリーズ

人類はどこから来てどこへ行くのか

第1作(1976)-訳(1995)

ゼカリア・シッチンは今や大御所だ。その主張は一言で言えば「人類は古代文明付きで宇宙人の作ったものだ。」となる。この分野(!)は宇宙考古学と呼ばれ、「マトモ」な学者たちからはナンセンス扱いされている。

もともとシッチンがこういう分野に興味を抱くようになったのは、旧約聖書 創世記6章に出てくる「ネフィリム」"Nefilim"を学校の先生が「巨人」と訳したことに疑問を持ったことが始まりだという。シッチンは年少期、ウクライナのユダヤ人学校に通っていて、そこではヘブライ語での聖書の授業を受けていた。ヘブライ語では「ネフル」は「降りる」という意味であり「ネフィリム」は「降りた者」になるはずなのにと、質問したのである。ところが、先生は「聖書に疑問を持ってはいけない!」とシッチン少年を叱ったという。冷静に考えれば、もちろんこれは「聖書への疑問」ではなく「聖書の語句の現代の解釈への疑問」であって、シッチンはこの線で研究を始める。

宇宙考古学とかの、通説に疑問を呈する類書の書きっぷりは、通説を信じる学者たちへの疑問はまあ良いとして、揚げ足をとったり、重箱の隅をつついてみたり、挙げ句の果てには恨み節を並べる本まである始末で、読んでいて本筋からはずれることしばしばで、「これは原稿料をむしり取るための水増しかよ!」というものも少なくない。

その点、シッチンのこの著作群は安心して良い。「恨み節」など一切無いばかりか、考古学、古代史、神話学、天文学、宇宙工学、分子生物学と多岐にわたる詳細な記述で織りなされた、およそ類書を見ない巨大で緻密な内容を持っていて、読む者に多大の努力を強いる。

あまりにも幅が広すぎて、専門が細分化された今日では、これを学問的に評価できる専門家がいないことが、この著作群が無視されている原因なのかもしれない。分子生物学者が、すぐ次の行に書かれている神話と宇宙工学を共に理解して評価するなど今日では気違沙汰といえよう。

第1作 "The 12th Planet"(第12番惑星)が1976年に上梓されているが、日本語訳(完訳)が出たのは19年も後の1995年だ。実はこの訳本が1977年に「謎の第12惑星」が「柏原 研 (著) 」として、ごま書房から出版されていたが、内容は1/3以下の圧縮版だったという。ここで紹介しているのは徳間書店からでた「竹内 慧」訳の完訳版で、訳者自身まえがきで「翻訳者泣かせ」と言っている。

さて、この 「人類を創成した宇宙人」が出版された1995年にイギリスで Fingerprints of the gods という本が発売されると、2週間でベストセラーとなった。翌1996年には速くも翻訳された。 「神々の指紋」 だ。日本でも大反響を巻き起こした。まさに絶妙のタイミングで「超古代もの」に注目が集まり、シッチンの著作も次々と翻訳されるきっかけとなった。ただ、第2作 The Stairway to Heaven だけは、翻訳権の関係からか「南山 宏」の「編訳」だけしか出ていなく、これも何らかの形で完訳されることを望みたい。

この「地球年代記」シリーズは実際は同じような記述が繰り返されることが多く、とくに「シュメール神話」の内容は何度も繰り返される。従って、シッチンの主張を知りたければ最新の1巻を読めば充分といえる。実際、最新刊人類創成の謎と宇宙の暗号(といっても日本語版は1999年で、英語版では2007年に最新刊 "The End of Days" がすでに出版されている)では、翻訳者北周一郎は、英語版原稿を早めに受け取り、翻訳の過程でシッチンからさらに追加情報を得て本文を充実させているという。

この手の、「超」考古学は、「考古学の地道な積み重ねを無視している」という苦言がある。しかし、ある時新しい考え方が「発明」されて、それまでの地道な積み重ねが音を立てて崩れ去った例もある。天動説を文字通りひっくり返したガリレイの例はよく引き合いに出されるところであるが、シッチンが現今のガリレイであるかどうか判断するには、まだ時を待たねばなるまい。ただ、シッチンはその判断材料は充分に書き残してくれているし、まだまだ書く気は充分であるようだ。

では、最後にこのシリーズを読んで何が得られるのかを列挙しておきたい。

  1. 人類が突然アフリカに出現したのはなぜ?
  2. 12や7といった数字を人類が特別視するのはなぜ?
  3. スフィンクスはなぜ獅子の体に人面なのか?
  4. ギリシャ神話や聖書の巨人伝説の起源は?
  5. ノアの方舟は本当にあったのか?
  6. 3600年周期でなぜ文明の飛躍的進歩があるのか?
  7. 12番目の惑星は本当に存在するのか?
  8. 人類は宇宙人によって作られたのか?
  9. 人類は再び「共通の言語」を話すようになるのか?
  10. 聖書に隠された暗号とは何なのか?
  11. 衛星写真で初めて確認できるシナイ半島の「傷」とはなにか?
  12. エルドラドは実在したのか?

※印がついた日本語訳は上下二巻になっているので注意されたい。

第2作(1980)-編訳(1983)
第3作(1985)-訳*(1995)
第4作(1990)-訳(1998)
第5作(1993)-訳(1995)
第6作(1998)-訳*(1999)
第7作(2007)
トラックバックURL

このエントリーのトラックバックURL:
http://saiquet.sakura.ne.jp/8869/mt-tkereb.cgi/374