2003年05月19日

黒沢明「生きる」

初めての試み「映画を語る」に武田さんが挑戦します。いっさい損得はないという名作映画を武田さんの語りで紹介していくシリーズです。

最初の映画は黒澤明「生きる」これは世界一の名作ではないかと。ハリウッドでリメイクの噂もあって、黒澤明という人は死んでも映画を撮っているような人ですねぇ。アメリカの大学生に講堂でこの映画を見せたら全員目を真っ赤に泣きはらしたとか。昭和27年。前回の失敗作に続いての作品。前回の失敗作から映画のポイントを学んだ。人間を描き続ける。画面を風景にしない。芸術作品にして大衆映画にする。

「生きる」はトルストイ「イワン・イリッチの死」を基にして作った映画。
今週は、映画のスジを武田さん独特の語りで聞く人をまるで映画を見ているかのごとくその世界に引き込んでいきます。こればかりは、文字で表現ができない。そこで、ここではスジを追わずに、武田さんの語りの中で特徴的な部分だけ拾っていきます。

トップは「パンフォーカス撮影」当てられた光量は通常の10倍。主人公は「胃ガン」。胃ガンの状態がもっと進行しなければ、今の死んだような状態から「生きる」感覚をつかむことはできない。そして、目の前で信じていたことが次々と壊れていく。そこから主人公が「生きる」事に追い込まれていく。

戦後すぐの街の繁華街の描き方が、黒沢独特。この場面で出てくるストリップ嬢。この方は本物のストリップ嬢で名前は「ラササヤ」黒沢監督は彼女の大ファンだった。お願いしてセットにつれてきて踊って貰ったそうな。

絶望の淵まで追いつめられた主人公の台詞。「もう遅い!」この台詞には黒沢監督は1週間悩んだそうな。38秒後、「いや、遅くない!」その喫茶店を出て行こうとするとき店の奥で「ハッピーバースディトゥユー」の合唱。なんと巧みな演出。この主人公が今ここで生まれ変わったという黒沢の思い。

映画が2/3まで進んだところで、突然主人公は死ぬ。映画の中では死ぬところに観客をつきあわさせるな。残りの1/3は通夜の席。出席者は誰も真実を知らない。真実を知っているのは観客だけ。観客は通夜の出席者のガセの話しに「それはちがうんだ!」との思い出引きずられてしまう。

武田さんは映画を語りながら、泣き出してしまいます。

この映画はあの敗戦後、わずか7年後にできた映画。これは奇跡的です。

(2003/05/19~23 放送)

Source

cover 黒沢明と『生きる』
―ドキュメント心に響く人間の尊厳 (単行本)

都築 政昭

Amazonの「MARK」データベースより
日本映画の最高傑作といわれる「生きる」。ガンを宣告された一公務員を重厚に描いたこの名作が作られた背景と撮影状況を、膨大な資料をもとにドキュメント風に追求。メイキング写真多数使用。

cover イワン・イリッチの死 岩波文庫
トルストイ (著), 米川 正夫 (翻訳)

Amazonの「BOOK」データベースより
一官吏が不治の病にかかって肉体的にも精神的にも恐ろしい苦痛をなめ、死の恐怖と孤独にさいなまれながらやがて諦観に達するまでの経過を描く。題材は何の変哲もないが、トルストイ(1828‐1910)の透徹した人間観察と生きて鼓動するような感覚描写は、非凡な英雄偉人の生涯にもましてこの一凡人の小さな生活にずしりとした存在感をあたえている。

cover 生きる
出演: 志村喬, 小田切みき, その他
監督: 黒澤明

Amazonのレビューより
その重いテーマにまぶした上質のユーモアが この映画に軽やかさを与えており 我々は涙ながらに笑い声をあげるという 極めて希な体験を得ることが出来る。黒澤映画の大きな特徴は 小生の持論だが そのユーモアのセンスにあると考えている。その証拠が この「生きる」である。こんな贅沢な映画はそうそうあるものではない。

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