2007年09月12日

蒲蒲線の多難な未来

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私は蒲田の街が好きだ。京急の駅とJRの駅が少し離れていることもあって、時間があるときには両駅の間の商店街をのんびり歩いたり、古本屋に寄ったり、駅ビルの昭和チックなデパートを楽しんだりするのが好きだった。そんなときに、かつてこの両駅を結ぶ線路があったことを知った。 京浜蒲田と国鉄蒲田を結ぶので蒲蒲線だ。 「カマカマ」という響きがおもしろいので、そういうネーミングを勝手にしちゃえ。というのでつけたのが 蒲蒲短絡線跡のコンテンツだった。これを初めて書いたのが2002年。当時は検索しても「蒲蒲線」というのは引っかかってこなかった。

地元商店街の欲しい軌道系交通機関

もちろんこの当時も、京急とJRの両蒲田駅を結ぶ鉄道の話はあった。これは私がプラレールで 「未来の京急蒲田展示」をやったときに地元商店会の方のお話にも出てきた。地元商店街の目論見はもちろん街の活性化にある。だから、両駅を結ぶ線路といっても路面電車やコミュニティバスを運行、トランジットモールのような街にして商店街の活性化と結びつけようというのが、この街からの提案だった。そもそも、 「未来の京急蒲田展示」も京急蒲田駅付近の高架化に伴って街が変わっていくのにあわせて商店街を活性化しようという運動の一つで、その展示の依頼を受けて、私も楽しみながらやったのだった。

だから、軌道系交通機関を蒲田の街に整備するならば、たとえばこの地図の青線のようになる。自動車を閉め出した街路(トランジットモール)を設定してそこに「街の装置」としてのLRTがこまめに停車しながら街のいわゆる毛細血管を結ぶ役割を果たす。地図では単線ループの路面電車を想定してみた。


運輸政策審議会の18号答申に見る蒲蒲線


運輸政策審議会答申第18号において 東京圏における高速鉄道を中心とする交通網の整備に関する基本計画について(答申) が出されたのが2000年。次第に「蒲蒲線」がクローズアップされたのは地元都議選や国政選挙において「蒲蒲線」の意義において論争が高まったことが原因にあると思われる。

答申における「蒲蒲線」の意義は東横線と羽田空港を直結するためのフィーダー線としての機能であって、蒲田の商店街の活性化とは無縁だ。まさに、蒲蒲線を巡る議論はこの点にある。
「街をただ通過するためだけの鉄道に税金を投入するのか。」
「この短い区間を整備するだけで都民全体の利便性が増す。」

議論の内容も含めて、この蒲田付近の話題をもっとも詳細に紹介しているのが 京急蒲田駅と その周辺 ~京急蒲田付近連続立体化工事をめぐる地域情報総合サイト~なので、是非ごらんいただきたい。このページには、様々な蒲田付近の街の話題から、蒲蒲線の想定される配線図などまで、いろんな話題が豊富だ。

蒲蒲線計画の問題点をまとめると以下のようになる。

  1. 東急と京急では軌間が異なる。(東急:1067m/m、京急:1435m/m)
    したがって東急の車両は京急にそのまま乗り入れられない。
  2. 乗り入れには設備の改良が必要
    乗り入れ先の京急空港線を3線にする、東急に軌間変換車両を導入する、など通常の直通にはない投資が必要とされる。
  3. 空港線のダイヤは逼塞している
    仮に乗り入れ可能な設備を作ったとしても、すでに京急空港線は多数の列車が運行されており乗り入れ列車の本数は限られたものになり使いにくくなると予想される。
  4. 乗り入れられないなら、乗り換え?
    代案として、接続駅での乗り換え案もいくつかあるが、いずれの案も空港へ行く乗客の利便性を損ねるものを新たに建設する点に疑問が残る。
  5. 大赤字が予想される
    蒲蒲線の運営主体は、第3セクターにする、東急が運営する、京急が運営する。などの方法が考えられるがこの区間をとってみると地元利用の見込みが小さくならざるを得ないため赤字運営が予想されている。誰がこの「ババ」を引くのか。
  6. 東急と京急は仲が悪い
    戦時統制下のどさくさにまぎれて、否応なしに大東急に吸収された京急は、東急への遺恨や不信感が未だにあるといわれている。乗り入れにしても、接続駅を作るにしても、現在京急を利用する人たちをむざむざ「敵」に渡してしまうような施策に京急は全く乗り気がない。

大田区東西鉄道

地元政府の大田区の姿勢はどうであろうか。 大田区東西鉄道「蒲蒲線」整備計画素案 には現在大田区が考えている蒲蒲線の姿が示されている。以上のような問題点をふまえて、あたかも運輸政策審議会と東急京急両鉄道会社の桎梏に板挟みにあっての苦しい胸の内を示しているように思える。

この計画では、軌間の異なる路線を東急京急それぞれの側に造って、地下の蒲田駅ホームでの乗り換えとなる。しかも建設費を浮かせるためか、単線での施工だ。京急側に行き違いのための途中駅「南蒲田」を京急線と交差するあたりに作ることになっている。

もし、この大田区の案通りに「大田区東西鉄道蒲蒲線」が開通したとして、利用者の立場から見たときどうなるのだろうか。新宿から羽田空港へ行く想定で考えてみる。
東急側の直通運転本数は、東横線の運転本数がボトルネックとなって4本/時間。京急側は6本/時間。この本数では東急側=15分間隔(4本/時間)、京急側=10分間隔(6本/時間)で運転間隔がかみ合わず、京急側は2本/時間は接続のない空列車を走らせることになる。東急側へ向かう乗り継ぎを見ると、1本おきに京急の2列車を接続するダイヤとなってとても使いづらそうだ。

蒲蒲線利用と現状で比べてみると、

  1. 「蒲蒲線」経由の場合
    地下鉄「副都心線」で「羽田空港行き」となっている実際は蒲田で乗り換えの列車に乗る。地下の蒲田で乗り換えホーム対面の列車に乗り換え。運賃は東京メトロ+東急+蒲蒲+京急と4社局分(!)の運賃合算となる。
  2. 「京急本線」経由の場合
    山手線内回りに乗車、品川駅でエスカレータないし階段で京急に乗り換え。運賃はJR+京急。
なんだか言うまでもないような気もするが、地図上で一見あった方がよいような鉄道も実際造るとなるとかなり高いハードルを越えてなお、困難が待ち受けているというのが現実のようだ。

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